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北極域研究センター月例セミナー(11月)を開催しました

  • 2023.11.29

北極域研究センター月例セミナー(11月)を11月28日(火)に開催いたしました。

日時 2023年11月28日(火) 15:30-16:20
開催形式 オンライン
参加者 21名
講師: LOMAEVA Marina (ロマーエヴァ マリーナ)、 新渡戸カレッジ・北海道大学
講演タイトル:
キタオットセイと人間のかかわり―略奪から共存へ。保護管理方式の変遷―
講演要旨:
キタオットセイは, 北太平洋からその周辺のベーリング海, オホーツク海, 日本海(以下, 北太平洋)に広く分布し, 北半球に生息するアシカ科のうち最も個体数の多い種である. オットセイ猟は、昔から北太平洋地域の先住民族 (北海道と南樺太のアイヌ人; カムチャッカを含むロシア極東のコリャーク人, イテリメン族, エヴェン人; アラスカとアリューシャン列島のアレウト人等) が営んでいた. 毛皮加工技術の進歩に伴い, オットセイの毛皮の市場価格が大幅に上昇し, 18世紀末からはロシア, 19世紀後半からはアメリカ, カナダ, 日本が極東植民地化の一環としてオットセイ猟業を発展させていった.
 北太平洋地域における人間とオットセイの関係は, (特に, 無差別な洋上猟獲による) 略奪, 時期・性・年齢別の規制 (最大の持続的生産性 (MSY) に基づいた種別管理), 環境収容力を含む環境要因を考慮した生態系に基づく管理 (EBM) という段階を経て, 原則として (米加露の) 先住民生存猟獲のみ認められる現在に至っている.
 この講演では, 日露米加による2つの国際保護管理体制 (1911~40年, 1957~84年) の興廃, 4カ国それぞれの国内規制, 世論の推移をたどって, 海棲生物の法的地位の変化 (誰でも獲得し得る共有物から共通の関心事へ), 価値観の進化 (消費価値を重視する資源観から非消費価値を重視する環境構成要素観, 本質的・固有の価値を重視する愛護観へ), 商業的利用の変遷 (猟業からシールウォッチング等の観光業へ) を追跡する.
 また, 海洋沿岸域の用途別管理から統合的管理 (IMCAM) への移行においてオットセイと人との共存への道の模索, すなわち, 海洋保護区の設置を含む海洋生物の保護と他の生物・非生物資源 (魚介類や海底油田・ガス田) の開発, 海運, クルーズ観光や海洋レジャーとの利害対立問題の解決・防止策, ステークホルダー間の調整, 意識改革に向けた取り組みについて, 特にロシア極東及び北海道における他の海棲哺乳類の事例も挙げつつ解説する。