論文掲載:グリーンランド北西部における海洋性カービング氷河の氷損失


低温科学研究所の津滝俊研究員(現宇宙航空研究開発機構、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)博士研究員)、本センター兼務教員杉山慎准教授、榊原大貴研究員(ArCS博士研究員)らの研究成果が、Journal of Glaciologyに掲載されました。

 グリーンランド氷床は、地球に存在する氷の10パーセントを蓄えています。近年この氷床が急速に縮小して海洋に流出する融解水が増加し、海水準上昇や海洋循環の変化など、地球環境への影響が懸念されています。また融解水の増加は周辺海域の水温や塩分濃度などを変化させ、海洋生態系に強い影響を及ぼす可能性が指摘されています。氷床の氷損失は沿岸部の海洋性カービング氷河で著しく、その原因は融解や氷山流出の増加と考えられています。しかしながら、氷が崩壊するカービング氷河末端部での観測は非常に困難で、急速な氷河変動の原因は理解が進んでいません。
 そこで、津滝研究員、杉山准教授、榊原研究員らは人工衛星画像の解析により、グリーンランド北西部のボードイン氷河と隣接するタグト氷河の表面高度と流動速度を測定しました。またボードイン氷河末端部において現地観測を実施し、氷河の厚さ、流動速度、融解量を調べるとともに、人工衛星データの検証を行いました。その結果、海洋に流入するボードイン氷河は、陸上に末端を持つタグト氷河と比較して約1.5倍の速さで氷厚が減少したことが明らかになりました(図1)。流動速度を詳しく解析した結果、ボードイン氷河は上流から末端に向かって急激に加速していることが確認されました(図2)。すなわち、末端から海洋へ流出する氷の量が、氷床から供給される氷の量を大きく上回り、氷河が急速に薄くなっていることが示されました。流動によって氷が薄くなる効果は氷の融解よりも大きく、ボードイン氷河における氷厚減少の主要因であることが示されました。
 本研究によって、研究例の少ないグリーンランド北西部において、海洋性カービング氷河の氷損失量とそのメカニズムが明らかになりました。この成果は、人工衛星データ解析と現地観測を駆使して、直接観測が困難なカービング氷河末端部の氷厚変化を広範囲かつ高精度に測定した結果得られたものです。これらの知見や手法はグリーンランド氷床のみならず、南極氷床、アラスカ、パタゴニアにおけるカービング氷河の変動解明に役立ちます。今後はArCSプロジェクトが取り組む複数の課題にまたがる研究テーマとして、融解水や堆積物の流出が海洋生態系に及ぼす影響を明らかにする計画です。

本研究は、GRENE北極気候変動研究事業およびArCS北極域研究推進プロジェクトの成果です。

雑誌名:Journal of Glaciology
論文タイトル:Surface elevation changes during 2007–13 on Bowdoin and Tugto
Glaciers, northwestern Greenland
著者:津滝 俊1,2、杉山 慎2、榊原 大貴2,3,4、澤柿 教伸5
1国立極地研究所、2北海道大学 低温科学研究所、3北海道大学 大学院環境科学院、4北海道大学 北極域研究センター、5法政大学 社会学部

詳しい発表内容については下記をご覧ください。
https://doi.org/10.1017/jog.2016.106

【参考図】
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図1. ボードイン氷河とタグト氷河における2007年8月20日から2010年9月4日にかけての表面高度変化。海洋に流れ込むボードイン氷河は年間約4メートル、陸上に末端を持つタグト氷河は年間約2.8メートルの速さで氷が薄くなっている。

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図2. ボードイン氷河とタグト氷河の氷が流れる速度。カラースケールは流動速度、矢印は流動速度と方向を示す。タグト氷河は全域にわたって比較的ゆっくり流れているのに対し、ボードイン氷河では上流から末端にかけて急速に加速している。