センター長挨拶

北極域研究センター(ARC-HU)とは

北極域研究センター長
 杉山 慎

地球温暖化が進行する中、北極では地球で最も著しい気候と環境の変化が進んでいます。地球平均の4倍ともいわれる速度で気温が上昇し、その影響を受けた海氷、氷河氷床、凍土の融解が進んでいます。この変化は海や陸の生き物にも大きなインパクトを与えており、水産資源にも深刻な変化が予測されます。この急激な変化にさらされているのが、北極域の8つの国に暮らす400万の人々です。自然環境の変化に加えて国際化と近代化の波も受けて、先住民を含む住民の暮らしは変貌を余儀なくされ、経済の発展と政治上の思惑が絡み合った複雑な社会問題が生まれています。

北極域で起きているこのような変化は、日本を含めた世界の問題でもあります。氷河氷床の融け水は海水準の上昇をもたらし、海洋循環に変化が起きれば地球規模の気候変動に拍車がかかります。また北極域の温暖化が、日本で頻発する豪雪や酷暑などの極端気象の原因ともなっています。一方で、海氷の消失に伴って北極海に航路が開け、鉱物資源の利用にも関心が集まています。

このような背景の下、北海道大学・北極域研究センターは2015年4月に設立されました。自然科学、社会科学、工学など様々な分野の研究者が、北極域の持続可能な将来に貢献するための研究活動を行っています。その複雑な自然と社会の変化を理解するには、多様な経験と知識を持った研究者の協力が不可欠です。そこで総合大学としての特徴を活かして北大内の各部局との連携を図ると共に、国内外の大学や研究機関との協働を推進しています。

北極域研究センターのミッション

ミッション1:北極研究の推進

北極域の総合研究機関である私達の重要な役割のひとつは、科学研究の成果創出です。現地調査、人工衛星データ解析、数値モデリングなど多彩なアプローチで、大気、海洋、氷河氷床、凍土、生態系の現状把握と将来予測を行っています。また北極海での船舶運用、寒冷地の住環境や廃棄物処理に関して、工学的な知見を駆使した研究を実施しています。さらに北極域をめぐる国際政治や、資源の利用を巡る法整備に関して調査を行い、先住民の生活と文化を理解するための研究を進めています。これらの研究活動の基盤となっているのが、ArCS III北極域研究強化プロジェクトです。北極域研究センターは、国立極地研究所、海洋研究開発機構と連携して、このオールジャパンの大型研究プロジェクトをリードする役割を担っています。

ミッション2:次世代研究者の育成

北極での研究活動を継続するためには、次世代研究者の育成が不可欠です。教育を通じて若手研究者を育てることは、大学としての重要な使命といえます。北極域研究センターはArCS IIIプロジェクトで実施する若手研究者育成・教育事業を担い、若手研究者や大学院生を海外に派遣し、北極域を学ぶための総合的な教育プログラムを運営します。道内の演習林や海外の協定校の協力を得た野外実習、おしょろ丸を活用した実習航海、一線の海外研究者を招いた特別講義や演習科目を開講しています。北極と南極を総合的に学ぶ科目群は、国内では類を見ないユニークなカリキュラム。北極教育に関する国際的な枠組みである北極大学(UArctic)に参画する唯一の国内大学として、海外の研究者とも連携して国際レベルのプログラムを整備しています。

ミッション3:国際ネットワークの構築

北極域に国土を持つ8つの国々に加えて、世界各国が北極における自然と社会の変化に強い関心と関わりを持っています。そんな中で持続可能な北極の将来を実現するために、国際的な協力体制が不可欠といえます。日本の北極研究と教育をリードする大学組織として、海外の研究教育機関はもちろんのこと、北極評議会(AC)、国際北極科学委員会(IASC)、各国の大使館とも連携して、国際的なネットワークの構築に取り組んでいます。特に北極との関係性が増すアジア各国との交流を深め、研究教育に関するアジア北極ネットワーク(Asia-Arctic Network for Research and Education、AANRE)を設立しました。

持続可能な北極域の未来に向けて

私たち北極域研究センターは、極域における研究と教育の長い経験と実績に基づいて、北極域の未来に貢献したいと考えています。その実現には、学内外、国内外の幅広い方々との協力が不可欠です。また息の長い研究活動には、次世代を担う若い研究者の参画が重要です。北極域に関心を持つ皆様との出会いと、新しい共同研究・活動の機会を楽しみにしております。どうかよろしくお願いします。

2025年6月 杉山 慎

センター情報

センター名
北海道大学 北極域研究センター
センター長
杉山 慎
住所
〒001-0021 札幌市北区北21条西11丁目
北キャンパス総合研究棟2号館(次世代物質生命科学研究棟)2階
電話
011-706-9074
FAX
011-706-9623
e-mail
arc-inform(at)ml.hokudai.ac.jp ※(at)を@に変えて下さい

アクセスマップ

● 新千歳空港 → JR札幌駅

【JR(快速エアポート)】:40分
【高速バス】:70~80分

● JR札幌駅 → 北極研究センター

【タクシー】:約10分(※JR札幌駅北口より「北20条東門」経由)
【中央バス(西51,西71)】:約16分乗車+徒歩5分(※「北21条西15丁目」下車)
【地下鉄】:約3分乗車 + 徒歩約20分(※南北線「北18条」駅下車)
【構内循環バス(無料)】:約10分乗車
(※JR札幌駅より北海道大学正門まで徒歩約10分。北海道大学正門(事務局前)より乗車 → 「創成科学研究棟前」下車。
 ※構内循環バスについてはこちらをごらんください。)

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