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論文掲載:Ice front and flow speed variations of marine-terminating outlet glaciers along the coast of Prudhoe Land, northwestern Greenland

  • 2018.4.2

 本センターの榊原大貴研究員(ArCS博士研究員)と兼務教員杉山慎教授の研究成果が、Journal of Glaciologyに掲載されました。

 グリーンランド氷床は地球上に存在する氷の約10%を占めています。近年グリーンランド氷床が急速に縮小することで海洋に流出する淡水が増加し、海水準上昇や海洋循環の変化など、地球環境への影響が懸念されています。氷床の質量損失は沿岸部で著しく、その原因は融解や氷山流出の増加と考えられています。2000年代前半には南部で著しい質量損失が観測され、その後北部でも質量損失が観測されるようになりました。氷山流出には海洋に流入しているカービング氷河の流動と末端位置の後退が重要な役割を果たしていますが(図1)、北西部ではそれらが過去数十年にわたりどのように変化してきたのか明らかとなっていませんでした。
 そこで榊原研究員と杉山教授は、グリーンランド北西部の19のカービング氷河について、1987–2014年における末端位置と流動速度を人工衛星データによって解析しました。解析の結果、全ての氷河で観測期間中の末端位置の後退傾向が明らかになりました(図2)。その中でも、Tracy氷河では年間200 mもの急速な末端後退が確認されました。氷河末端の後退傾向は2000年以降顕著であり、夏期の気温が上昇した時期と一致していました。また、対象とした氷河の末端付近では年間20–1740 mの流動速度が観測され、その経年変化も明らかになりました。末端が急速に後退した氷河では同時に流動速度の増加も観測され、流動加速が末端後退を促進している可能性が示唆されました。
 本研究によって、研究例の少ないグリーンランド北西部において、カービング氷河の変動と流動変化が明らかになりました。この成果は、人工衛星データ解析を駆使して、カービング氷河の変化を広範囲かつ高時間分解能で測定した結果得られたものです。今後はArCSプロジェクトが取り組む複数の課題にまたがる研究テーマとして、氷河からの融解水や氷山、堆積物の流出が海洋生態系に及ぼす影響を明らかにする計画です。
 本研究は、GRENE北極気候変動研究事業およびArCS北極域研究推進プロジェクト、JSPS科研費JP16H02224、JSPS特別研究員奨励費JP14J02632の助成を受けて実施されました。

雑誌名:Journal of Glaciology
論文タイトル:Ice front and flow speed variations of marine-terminating outlet glaciers along the coast of Prudhoe Land, northwestern Greenland
著者:榊原 大貴1,2、杉山 慎2,1
1北海道大学 北極域研究センター、2北海道大学 低温科学研究所

詳しい内容については下記をご覧ください。
https://doi.org/10.1017/jog.2018.20

【参考図】

図1. 研究対象としたカービング氷河の1つTarcy氷河末端付近の写真。氷河末端から氷山が海洋に流れ出している。2012年7月31日撮影。

図2. 研究対象とした19氷河の位置と、2000–2014年における末端位置の移動距離。右上はグリーンランド氷床における対象地域の位置を示す。